フィクション2

"海の税金"であるにもかかわらず、「関税」は海上では徴収されない。
『船はやがて陸(おか)を目指す』
当然といえば当然だが、これが繰り返される限り、港でじっと
やってくる船を待つだけで、徴税官は税金を取り逸れることは無い。
ブリタニアには星の数ほど港がある。また、港以外にも海岸線は
延々と続いている。点在する主要港だけを徴税官で固めても、
いくらでも蟻の這い出る隙があるのではないか?」
海を知らない素人密売人はこんな感想を持つかもしれない。
しかしやめておいた方がいい。


荒波を避け、商業採算ベースの大型船が寄港できる港となると
限られてくるし、運良く徴税官の目の届かない小港や陸地に接岸できた
ところで、そんなちっぽけな施設に品物を捌くだけの倉庫があり、
顧客がいることはまず考えられない。
『天網恢恢 疎にして漏らさず』
王室は費用対効果を考え、実に効率良く徴税官を配置しているのである。


小悪人の思いつきにはいささか悲観的な回答になってしまったが、
商売のタネにずっしりと圧し掛かる税負担から、上手く逃れる方法も
ないわけではない。
その一つは、密貿易のプロに依頼する方法である。
あらゆるしがらみを厭い、国という鎖を断ち切り世界中の海を駆け巡る
『海賊』
彼らのアジトともいうべき秘密の港は、どこもみな権力の支配の外にあり、
ただ己等を戒する掟によってのみ動いている。
もちろんいくらかの報酬は必要だが、積み荷すべてに「関税」を課される
ことに較べると、商売の儲けに天と地ほどの開きが生まれる。
大海原に張り巡らせた独自のネットワークをもって、
禁制品を運んだり、危ない品物を捌いてくれたり、並みの輸送屋が
尻込みしそうな仕事にも「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべるだけで、
躊躇しないところが魅力だ。


義に厚い彼らは、一旦引き受けた依頼(ミッション)にはどこまでも忠実だ。
常日頃より鍛え抜かれた操船術・海戦術をもって、嵐や他の海賊船、
果ては各国の巡視艦・戦艦とまでも渡り合い、数多の障害を乗り越えて、
必ずや望む相手のもとへ、迅速に積み荷を届けてくれるであろう。
密貿易に限らず、「どうしても何時いつまでに運びたい」といった時間勝負や、
「絶対にしくじらないで欲しい(物資に限らず人間であっても)」といった
確実さの欲しい局面でも、大きな手助けとなること請け合いだ。


そしてもう一つ・・・                   つづく