フィクション3

あまり知られていないが、ブリタニアには「免税特区」が点在する。
行われた経済活動に対して、関税をはじめあらゆる税金を免除される
というありがたい制度・その対象地域のことである。
すべてのシャードに存在し、その場所も、市場の一角であったり、
砦であったり、港であったり、河川の中州であったり、およそ取引が
行われそうな場所はすべて「免税特区」になる可能性がある。
「免税特区」とは王室のつけた名前だが、誰もそんな風には呼ばない。
「租税回避所」庶民からすればこちらの名前の方がシックリくる。
王室が政策のために創設する場合と、民からの請願によって創設される
場合があり、言うまでもないが前者に比べ後者は圧倒的に数が少ない


王室主導の創設は、飢饉・戦争・モンス襲来で疲弊した地方への物資移動
の促進、経済が停滞している過疎地域の物流活性化、国が特に必要として
いる物資の確保など、大抵の場合は、当事者達に降りかかる想像を絶する
ペナルティの緩和の目的で税の免除を餌としている経緯があり、
一見、効率よく財産を残せる結構な制度のように思えるが、道中リスクや
不良在庫の抱え込みを考えると、「普通に商売するよりは若干だけ儲けた」
程度に終わることがほとんどのようである。
民からの請願による場合には一種の特権にあたるため、その認可は条件が
非常に厳しく、また仮に創設されても、趣旨から外れる大多数の人々には
まず公表されないことがほとんどで、現実的には「部外者が免税特区を利用
して一財産築ける」可能性は無いに等しい。


さて、ここムゲンシャードにおいても、他シャードにもれず「免税特区」は
存在する。その中で、ハードコアシャードの持つ独自のルールゆえに、
他シャードには見られない面白い成り立ちの「免税特区」がある。
そしてそれは、存在すらも疑問視されていた
「民からの請願により創設された免税特区」なのである。
ムゲンに住む『移民』の方々をご存知だろうか?
厳しく自身を律し、他者からの魅力的な申し出にも敢然と背を向け、
不自然に便利になりすぎた世界に身を置きながらも、昔在ったUO生活を
目指す人々のことをいう。遠い昔、彼らがこのムゲンにやってきた際、
拠点とした町のひとつにミノックがある。
当時、ムゲンに、それも他ならぬミノックに移民団がやってくることに、
町の長はじめ住民は大喜びし、遥か遠方から長旅の果てにこのミノックに
辿り着く移民団のために、少しでも彼らの力になりたいと、ミノックの町に
通ずる港一つ、いや埠頭一つでいい、免税特区になれば、海を渡って
やってくる後続の移民団の足がかりになるだろうし、その後の彼らの生活も、
随分助かるのではなかろうか。そんな思いから、ミノックの町の誰も噂しか
知らない「免税特区」なるものの申請を、いそいそとブリティンの王宮にある
護民庁へ申し出たのであった。


驚いたのは王宮の役人たちだ。
免税特区創設の手続き自体は、それほど珍しいことでもない。
「××戦役による臨時免税特区」とか「王家御用達品免税特区」など、
その時々何がしかの免税措置は政策上必要であるからだ。
しかし、王家やあるいは大司教・大貴族の要請による免税特区はあっても、
民からの申請による免税特区創設の希望は聞いたことが無い。
ただ、法典範には「形式の整った書類における民からの要請で、
其を創設するに足るしかるべき理由があるときは、免税特区の創設は
此を認める」としっかり記載されている。
窓口役人から護民庁長官まで、前例の無い出来事に右往左往、王宮中を困惑に
陥れる事態にまで発展してしまった。


住民の親切心に端を発したこの騒動は、やがて現在の「免税特区」にもその名残
を見せる方向へと話が進んでいく・・・                   



                              つづく



※「移民」の定義については、多分に誤解があるかもしれませんがその節は
お許しくださいませ。
 ブログ「移民式無限生活計画」さま 参照させていただきました。
ありがとうございました。