フィクション1

ブリタニア王家を支える財源として「関税」というものがある。
その性質も成り立ちも全く異なるが、対象者の国籍・在所に関わらず、
拠点を定めて移動集団から徴税を行う点において、
街道の関所における「通行税」とよく似ている。
物資を運ぶ商船や、人員の輸送を生業とする旅客船など、
軍用船・官船以外のすべての船は接岸するたび、
物資の種類や数量により、あるいは賃送している旅客人数により、
この関税を徴収される。
旅人が徴収される「陸の税金」が通行税であるとすれば、
関税はいわば「海の税金」といったところか。


陸地における通行税は、関所(本来は国王の持ち物)の管理ともども、
その地に封じられた領主の差配に任されており、税収も、王家への上納が
済めば、原則領主が自由に消費しても構わないという。
しかし関税については、その額が莫大になることを第一の理由として、
中央政府より派遣された徴税官が、ブリタニア版図の主要各港に
派遣されており、課税・徴税・禁制品の取締りなど、
港の管理運営に関しての一切の指揮権を
握っているといっても過言ではない。


なぜなら、徴税官の権限は絶大であり、たとえその港を内包する
地方領主であっても、港に関する事項には口出しできず、
逆に、徴税官から港の営繕や防衛の要請があれば、領内の財貨や
兵力でもって(足りない場合には領民に賦役を課してでも)
これに応じる義務があるからである。
自領内にあるこれらの港とそこで権勢をふるう徴税官は、
さながら「喉に刺さった小骨」のように
領主貴族にとっては、何かと煙たい存在であるらしい。


一方で王室も、徴税官には本来の任務である「税金の徴収」に終始させる
つもりはさらさら無く、独立した強大な権力を直接に与えることにより、
地方貴族を牽制する監察官としての役目のみならず、
その領内の主要港における海上交易の旨みを根こそぎ浚うことまで
背景においた、国王の金庫番としての役割をも兼備させている。
それゆえ、徴税官には私心なく忠誠心の高い、王にとっての腹心が
任命されることがほとんどだ。

 
  王国を束ねるものには、古今東西共通する悩みがあるようである。
  はるか遠く、サムライの支配する東方の島国でも、形態こそ違うが、
  家臣の管理掌握には神経をすり減らしている模様だ。


  ミカドの軍事最高司令官である"ショーグン"は、配下の"ダイミョー"
  が、中央から離れた封土において反乱を起こすことの無いよう、
  ダイミョーの妻子を自らの中央直轄地に置いて、体のいい人質とする
  ことでその芽を絶ち、
  また蓄財によって肥え太らないように、ダイミョー自身をも頻繁に
  ショーグンの居城に呼び寄せたり、あるいはメモリアルのたびに、
  ショーグンの墓所の大規模な改修を命じることで、ダイミョーに
  散財させ、彼らの財力・軍事力の増大を防いでいたという

                           
                                つづく